ねこすたっと

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Rothman拾い読み:効果・関連の指標

Rothman先生のModern Epidemiology, 4th edition(以下ME)をパラパラめくって拾い読みしたメモです。 今回は "Chapter 5:Measures of Effect and Measures of Association" から、効果・関連の指標について。

効果(effect)

「効果(effect)」という語は、単に「結果・転帰」のような意味で使われることもあるが、疫学的に大事なのは以下の定義だろう(MEから引用)。

an effect of a factor is a change in a population characteristic that is caused by the factor being at one level versus another.

MEの例を引用すると、アルコールをたくさん飲んで肝硬変のaverage riskが1/10000人年から1/1000人年に増加した場合、これを「アルコール過剰摂取の効果」と表現する。この「アルコール過剰摂取」のように、潜在的な原因となりうる特性(行動様式、習慣、治療、遺伝的素因、社会的状況、併存症など)のことを「要因(exposure)」と呼ぶ。また、ここでの「集団の特性」は臨床研究で言うところの「アウトカム(outcome)」と言い換えてもいいだろう。

効果(effect)とは「要因の程度が変わることにより集団にみられるアウトカムの変化」であるし、「効果がある」ということは「要因とアウトカムに因果関係(causation)がある」ことと同じ意味で考えてよさそう。両者を合わせた因果効果(causal effect)という語もよく使われる。

因果効果(causal effect)と関連(association)

よく混同されがちなこの2つの概念の違いを端的に理解するには、Harnan先生のCausal Inference: What ifに描かれてある図が一番分かりやすいと思う(手書きにしました)。

イラストの右では、「集団の中で要因がある人」と「要因がない人」を比べているが、これでは因果関係(あるいは因果効果)があるかどうかは分からない。これで見ているのは関連(association)の有無。

因果効果をみるためには、「集団全員が要因を有した場合に発生するアウトカム」と、「同じ集団全員が同時期に要因を有していなかった場合に発生するアウトカム」を比べる必要がある(イラスト左)。 当たり前の話だけど、これらは実際には同時に起こりえない・同時に測定しえない状況であり反事実(counterfactual)と呼ばれる。また、その要因があったら(なかったら)観測されたであろうアウトカムを潜在的アウトカム(potential outcome)という。

これに対し「関連(association)」は、「異なった集団において見られるアウトカムの違い」のこと。効果は「同じ集団かつ同じ時期」なので観察不可能だが、関連は「異なった集団あるいは異なった時期」なので観察可能。でも両者が同じになるとは限らない。両者が一致しない状況を「交絡がある(confounded / confouding)」と表現することがあるが、交絡については別の機会に。

効果の指標

要因の効果は、発生割合や発生率などの「差」や「比」を使って表現する。 発生の指標の差は絶対的効果指標(absolute effect measure)、発生の指標の比は相対的効果指標(relative effect measure)と呼ばれる。

繰り返しにになるが、ここで言っている発生の指標とは「潜在的アウトカムの発生の差・比」のこと。 集団全員が要因を有した場合に発生するアウトカムと、集団全員が要因を有していない場合に発生するアウトカムについて、発生割合や発生率の差・比を見なければならない。

絶対的効果指標

  • 発生割合の差:causal risk difference, excess risk
  • 発生率の差:causal rate difference
  • 発生時間の差で見ることも可能

相対的効果指標

  • 発生割合の比:causal risk ratio
  • 発生率の比:causal rate ratio
  • 発生オッズの比:causal odds ratio
  • 発生時間の比:causal ratio of disease-free time
  • Risk ratioとrate ratioをまとめて、relative riskと呼ぶこともある
  • 同じ状況を異なった3つの指標(割合、率、オッズ)の比で評価した場合、割合、率、オッズの順にNULL(=1)から遠くなる。

この他に、要因ありの集団における発生割合(率)で差を割った寄与割合(attributable fraction)として表すこともある。 MEではこの後、効果修飾や層別効果の統合、指標の標準化などの話が続く。

おわりに

  • 因果効果は「If, もしも」の世界。
  • 猫にもフィッシュ派とチキン派がいるんだなと思う今日この頃です。

参考資料