ねこすたっと

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Rothman拾い読み:研究デザインの型

Rothman先生のModern Epidemiology(4th edition)をパラパラめくって拾い読みしたメモです。 今回は "Chapter 6:Epidemiologic Study Design With Validity and Efficiency Considerations" から、研究デザインの型について。

Chapter 6では研究デザインの型について基本的なことが書かれています。この記事ではそれぞれのデザインの定義を説明(ときに引用)するだけにして、もう少し突っ込んだ内容(Chapter 7-11)はまた別の機会に。

実験的デザイン

一般的には、実験とはコントロールされた環境において、ある種の操作・条件変更が被観察体においてどんな効果をもたらすかをみるもの。 疫学は人を対象としているので、「実験」と言っても細胞や動物を使った実験に比べて制約がたくさんあり、一般的な意味での「実験」は行えない。 MEでは疫学における実験を次のように定義している。

For epidemiologists, however, the word experiment usually implies that the investigator implements one or more specific interventions to two or more subsets of participants in the study.

つまり、疫学における実験(疫学実験*1, epidemiologic experiment)とは、複数のグループに別々の介入を割り当てること。比べる必要があるので2つ以上のグループが必要。 ランダム化されたものだけを実験と呼んで、ランダム化以外の方法で実験と同じ状況を再現しようとするものを擬似実験(quasi-experiment)と呼ぶことがある。 下は実験の代表である臨床試験のイラストです。

疫学実験には、次の3つのタイプがある。

臨床試験(clinical trial)

MEによると臨床試験とは、

A clinical trial is an experiment with patients as subjects. The goal of most clinical trials is either to evaluate a potential cure for a disease or to find a preventive of disease sequelae such as death, disability, or a decline in the quality of life.

つまり、患者を対象とした疫学実験のこと。病気の治療方法を評価したり、死亡・障害・QOL低下を予防する方法を探したりするために行われる。

MEではこれに続いて、割り付け(ランダム化)、インフォームドコンセント、盲検化とプラセボ、アドヒアランス不良とIntention-to-treat(ITT)解析、結果の一般化可能性などの説明がある。

野外試験(field trial), 実用試験(pragmatic trial)

MEでは次のように説明されている。

Field trials differ from clinical trials in that their subjects are not defined by the presence of disease or by presentation for clinical care; instead, the focus is on the initial occurrence of disease.

つまり、野外試験*2では、対象を患者や医療機関を受診した人に限らない。 臨床試験は効率の都合上、アウトカムを発生する可能性が高いハイリスクな人を選んで行われるが、一般化可能性を高めるためにもっと広い範囲の人を対象として行われるもの。

地域介入試験(community intervention trial)

MEの説明は次のとおり。

The community intervention trial is an extension of the field trial that involves intervention on a community-wide basis.

つまり、個人ではなく集団(コミュニティ)を対象として介入が行われるもの。集団の中の小さいグループに対してランダムに介入を割り付ける試験をクラスターランダム化試験(cluster-randomized trial)と呼ぶ。

非実験的デザイン

因果効果の推定のためには実験的デザインが理想的だが、倫理的な制約のため非実験的デザインを取らざるを得ない。

コホート研究(cohort study)

集団を要因の有無で群分けするが、研究者が割り当てるわけではない。 単にアウトカムの発生を観察し、要因別に評価するだけ。

ケースコントロール研究(case-control study)

集団をアウトカムの有無によって群分けする。まずは罹患者(=ケース)を集め、もともとはその人たちと同じ集団に属していたであろう非罹患者をサンプリングしてくる。罹患者・非罹患者のそれぞれにおいて、過去に遡って要因への曝露を測定する。

コホート研究と違って、サンプリングという過程が追加される。サンプリングによって集団全体を評価しなくてよくなるので効率的になるが、新たなバイアスを生む。

横断研究(cross-sectional study)

コホート研究、ケースコントロール研究では時間の流れがあったが、横断研究はある時点における要因・アウトカムの存在の関連をみる。

問題点としては、

  • 要因とアウトカムの時間的順序が分からない
  • 要因の有無によって疾病の発生は変わらなくても罹病期間が変わる場合、要因と疾病発生に関連が生じやすくなる(length-biased sampling)

生態学的研究(ecological study)

観察単位が個人ではなくグループのもの。 下のイラストにあるように、個人レベルでの関連と集団レベルでの関連は一致するとは限らない。

前向き(prospective), 後向き(retrospective)

色々な使われ方があるとのこと。

用法1:コホート研究・ケースコントロール研究

  • 前向き = コホート研究
  • 後向き = ケースコントロール

この使い方は今はほとんどないだろう。

用法2:研究実施期間を基準にした定義

  • 前向き = 患者の観察期間が研究開始よりも後
  • 後向き = 患者の観察期間が研究開始よりも前

同じ研究の中で前向き・後向きが混在することになる。

用法3:要因とアウトカムの測定タイミングに基づいた定義

  • 前向き = アウトカムが判明する前に要因の測定が行われる
  • 後向き = アウトカムが判明した後に要因の測定が行われる

用法3は、アウトカムが判明してから要因を測定することに起因するバイアスに注意を払うために有用だが、全ての要因が同じタイミングで測定される訳ではないので同じ対象者の中でも前向き・後向きが混在しうる。

MEでは、いっそのこと「前向き・後向き」を使うのをやめて、データ収集について詳細に書くだけにとどめる方がいいのではないかと言っている。

おわりに

  • 前向き・後向きはもう書くのやめようかと思います。
  • お風呂から上がると、猫がビショビショのバスマットの上でくつろぎながら待ってます。気持ち悪くないんでしょうか。

参考資料

*1:一般的にイメージされる実験と区別するために勝手に訳しました

*2:この訳でいいのか...